前回のコラムでは、冬は温かく、夏は冷たく感じる床下の熱環境を利用するための工夫を続けてご紹介しましたが、
15度程度の一定の温度を保つ井戸水も、同様にその温度利用が可能です。井戸水が出るお宅の建て替えに当たって、
夏の冷房にその井戸水を利用できないかとの建て主のご要望をきっかけに試みた事例をご紹介したいと思います。
リビング上部の吹抜けに面した2階の廊下手摺にラジエーターのような壁を天井までつくり、
そのパイプに井戸水を循環させることで、輻射冷房の面をつくりました。
当初は、井戸水を利用する水冷式のヒートポンプ方式なども考えましたが、システムが複雑になる点や、冷房を空調機(クーラーの風が苦手なご家族だったので)を使わずに輻射冷房にし
た場合の制御機器の開発の難しさや、井戸水の冷水の量によっては他の設備機器との二重設置
が必要になってしまう部分が出るなどのコスト的な問題などがあり、井戸水利用の本格的な
水冷ヒートポンプ方式は断念しました。次ぎに考えたのが、制御するセンサーは住む人の
皮膚感覚にお任せして、手近に出来る範囲で井戸水を輻射冷房に利用する方法でした。暑ければ循環する井戸水の量を
少し増やし、涼しければ少し絞っていただく。最もシンプルな方式です。輻射冷房なので夏でも窓を閉め切る必要は
ありません。窓から入る風とともに、やさしい涼しさのおいしい空間を楽しめます。