前回のコラムでは、冬は温かく、夏は冷たく感じる、井戸水の恒温性を利用するための工夫をご紹介しましたが、今回は落葉樹の生み出
す、夏は木陰の涼しさや、冬は日溜まりの暖かさなどの、季節によって生み出される敷地内温度差を住宅の熱環境に活かした例を紹介した
いと思います。美味しくたくさん実のなる大きな柿の木が二本あるお宅の建て替えに当たって、
邪魔になりそうな位置にある柿の木を「二本とも何とか残せないか。」との建て主のご要望を
きっかけに試みた事例です。プランを作ってみると柿の木を残すと何とも複雑な形態になること
が判りました。そこで柿の木を残すために生まれた坪庭を積極的に利用して、柿の木の木陰を最
大限利用出来る形態にして、夏の木陰に生まれた涼風による通風と、坪庭からの冬の日当たりを
確保する事を試みました。
実は井戸水利用をしたお宅と柿の木の坪庭をつくったお宅は同じです。エアコンに頼ることなく、
少しずつ自然の涼しさや暖かさを集めて、暑くなく寒くない環境をつくろうというものです。この夏は
都内でも停電が予定されています。
電気が止まったとたんに良好な環境と無縁になるような設計はできる限りしたくないものです。今私達に
強いられている節電は、これまであまりにも電気に頼り過ぎてきた生活を悔い改めなければならないと感
じさせる良いきっかけになったような気がします。夏冬通して温度が一定の井戸水利用もそのひとつです
し、夏は緑が繁り、冬にはその葉が落ちることで日光を調整してくれる落葉樹は本当にすばらしい日射コ
ントロール装置です。そこにおいしい果実がなれば、文字通り本当においしい空間になります。そんなお
いしい設計を、これからはなおさら積極的に進めていきたいものです。